月収100万、また信じた|軽トラで街を走った1ヶ月【アメリカンドリームの後始末・第7話】

アメリカンドリームの後始末

話は少し進む。もみほぐしを辞めた後の話だ。

アニメグッズとヴィンテージギター。これがわたしの「商売」だった。アメリカ時代から続けてきたせどりを、帰国後も細々と続けていた。

細々と、だ。小学生ふたりを養えるほどではない。

それはわかっていた。わかっていながら、「いつかは」と思い続けた。入った瞬間は水面が見えている。気づけば首まで浸かっている。せどりとはそういうものだ。

再就職という選択肢は、なぜか浮かばなかった。浮かばなかった、というより、浮かんでは沈めていた。

20年アメリカで生きてきた。自分で判断して、自分で動いて、それで食ってきた。誰かの下で働くということが、どこか遠い話に感じられた。プライドと言えば聞こえはいい。ただの意地、だったかもしれない。

だから「自分で何かやれないか」を探し続けた。

Indeedというアプリがある。求人情報を探すやつだ。ある日、こんな文言を見かけた。

「月収100万プレーヤー多数在籍」

また、か。

と思ったかどうかは、正直覚えていない。たぶん、思わなかった。人間というのは学ばないものだ。とくにわたしは。


軽トラとアナウンス

仕事の内容は、不用品回収だ。

軽トラックに乗り込んで、スピーカーからアナウンスを流しながら住宅街を走る。「ご不要になった家具、家電、なんでも回収いたします」というやつだ。

車はなかった。会社が貸してくれた。給料から引かれる、という仕組みで。「すぐ始められます」と言われた。確かに、すぐ始まった。

都内を走ることもあった。住宅街の細い道を、アナウンスを垂れ流しながらのろのろと走る。恥ずかしくなかったかと言えば、嘘になる。信号待ちで隣に車が止まるたびに、前を向いて視線を外した。


値段がわからない

客対応そのものは、悪くなかった。

困っている人が相手だ。「これ、引き取ってもらえますか」と出てくるお客さんに、悪い人はあまりいない。その点は、もみほぐしの客あしらいと似ていた。

問題は、値付けだ。

同じような冷蔵庫でも、日によって、担当者によって、値段がまるで違う。マニュアルはあってないようなもので、商談は「空気を読め」の世界だった。

強気に出ればよかったのか、下げればよかったのか。お客さんの顔色を読みながら、毎回中途半端な値段を言って、毎回しまった、と思った。


稼げない日々、母への借金

完全報酬制というのは、稼げれば夢があって、稼げなければただの無給だ。

一日走り回って数万になる日もあった。ゼロの日もあった。月にならすと、とても家族を養える数字にはならなかった。

初期費用が少しかかった。母に借りた。

「少し貸してほしい」と言った時の、母の顔を覚えている。何も言わなかった。ただ、黙って用意してくれた。

アメリカで20年。マッサージの資格も取った。市民権だって持っている。それが今、母に借金している。

惨めという言葉が、じわじわと体に染みてきた。


1ヶ月で、やめた

続けても意味がないとはっきりわかるまでに、1ヶ月かかった。

正確には、1ヶ月で十分だった。この仕事では食っていけない。それだけはくっきりと理解できた。

ただ、それだけだ。次に何をするかは、まだわからなかった。

不用品回収という仕事自体は、嫌いではなかった。困っている人から物を引き取る。それを誰かにつなぐ。その流れの中に、なにか自分に合ったものが潜んでいる気がした。

その感覚だけを持って、軽トラを返した。

→ 第8話へ続く

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